進化する「株式投資のバイブル」、2019年<原著第12版>として大幅改定
私は1999年発行の<原著第7版>を読んでいましたが、同じように過去の版を読まれている方も新版を是非読むべき
2000年のITバブル、リーマンショック、仮想通貨まで網羅、また第10章行動ファイナンス学派の新たな挑戦、第11章「スマート・ベータ」と「リスク・パリティ」が新たに追加され、より現代の資産運用に沿った内容にバージョンアップ
この本から学ぶ、資産運用に役立つキラーフレーズとは……
本の概要：
◆全世界で読まれている「投資のバイブル」
1973年の初版以来、全米累計150万部を超え、「投資の名著」として絶賛されるベスト&ロングセラー、A Random Walk Down Wall Streetの最新版。本書の主張は「インデックスファンドへの投資がベスト」というシンプルなものだが、類書と異なる点は、なぜ他の投資方法がインデックス投資に比べて劣っているのかを、データを示してしっかり論じているところだ。過去のデータを鑑み、アクティブファンドの長期リターンが市場平均を下回ることを証明し、「猿がダーツで選んだポートフォリオを運用するのと等しい」とこき下ろすあたりは、読んでいて痛快かつ明快である。
硬派な内容でありながら、数式はほとんどなく、グラフや表を多用しており、初心者にも理解しやすくなっている。間抜けなテクニカル分析手法やチューリップからITに至るバブルの話など、読み物としても面白く読める。
◆改訂のポイント
本改訂では、第4章の「21世紀の歴史」に仮想通貨の話題を3項ほど追加したほか(仮想通貨はとんでもないバブル、実体のないいい加減なものと言い放っているが)、前回の改訂で追加した「第11章 「スマート・ベータ」は本当に役立つか」の章をさらに拡充。
スマート・ベータとは、時価総額(TOPIX)や株価(日経平均)のような”単純”な要素にウエイトを置くのではなく、「財務指標」や「株価の変動率」、「配当」など、より”スマート(賢い)”な要素にウエイトを置く考えのことで、日本でもETFや投資信託の拡充で関心が高まっている。本書ではより「リスクパリティ」(それぞれ保有する商品のリスクが均等になる考え)である投資手法を解説のメインに据えている。
amazon『内容紹介』より著者：
バートン・マルキール
932年生まれ。1964年プリンストン大学経済学博士。同大学経済学部長(74‐75、77‐81)、大統領経済諮問委員会委員(75‐77)、エール大学ビジネス・スクール学部長(81‐88)、アメリカン証券取引所理事等を歴任。世界的な投信会社バンガード・グループなどの社外重役としても活躍。現在、プリンストン大学名誉教授、ウェルスフロント・インクチーフ・インベストメント・オフィサー、リバランス社投資アドバイザー
amazon「BOOK著者紹介情報」
この本から学ぶ、資産運用に役立つキラーフレーズ
<原著第12版>
“証券投資は実に面白い” p.25
“金融の重力の法則” p.36
“「より馬鹿」な投資家の供給には限度がある” p.92
“私はチャーチストに対して偏見を持っている” p.177
“おばあちゃんたちは帳簿にも味つけしていたことがばれてしまった” p.201
“敗者が自滅することによって勝敗が決まる” p.314
“株式投資は結局のところ、一種のアートだからである” p.495
<原著第7版>
“チャート分析は錬金術と大差ない” p.213
“プロたちに詳細にフォローされていない小さな会社” p.263
解説
<原著第12版>
“証券投資は実に面白い”
巨大な投資業界を相手に自らの知性をもって挑戦し、自分の資産が増加するという報酬を得ることは実に楽しい
それに新製品や新サービスを知ることも大いに知的好奇心を刺激する
“金融の重力の法則”
維持不可能な高価格は何年間かは続くかもしれないが、やがてピークを打って反落する時が必ず来る
“「より馬鹿」な投資家の供給には限度がある”
バブルは結局のところ「ポンジースキーム（ねずみ講）」であり、初期に参加した投資家は大きな儲けを手にするが、バブルを持続するためにはますます多くの馬鹿な投資家を引き入れて、株を転売することが必要なのだ。問題は「より馬鹿」な投資家の供給には限度があるということなのだ
“私はチャーチストに対して偏見を持っている”
「詳細な調査によると、テクニカル信者には、穴のあいた靴や衿の擦り切れたシャツを身にまとっている者が多いということが知られている。私個人の経験では、失敗したテクニカル信者の成れの果ては何人か知っているが、成功したテクニカル信者というものには、ついぞお目にかかったことがない。」（p.176）
この本は名著であるが、こういう偏見に満ちた部分が残念である
このように書くなら、詳細な調査とは誰がどのようにして行ったのか、出典を記述するのは当然であるし、知られているとは誰に知られているのか明瞭にすべきであろう
成功したテクニカル信者については、江戸時代米相場で巨万の富を築いた本間宗介（酒田五法というテクニカル分析）、このブログでも紹介したW.D.Gann、近年ではウィリアムズ%Rを駆使したラリー・ウィリアムズ（Larry Williams、1942年10月6日 – ）などが存在する
ただし、テクニカル分析はコンピュータの発展により、様々な手法が瞬時にシミュレーションできるようになった結果、安易な分析で超過リターンを生み出すことは難しいと考えられる
現代では、テクニカル分析にインターネット上の言語頻出分析などを組み合わせた上でAIによるディープラーニングによって新たな投資手法を生み出す方向に進んでいると考えられる
“おばあちゃんたちは帳簿にも味つけしていたことがばれてしまった”
90年台半ば、「ビアーズタウンのおばあちゃんたちの株式投資大作戦」というベストセラーになった本があり、このおばあちゃんたちの投資方法に注目が集まった
彼女たちの投資方法は基本ファンダメンタル投資であるが、その成果は高く（年率23.9％）、「ウォール街を負かした！」と有名になり、テレビに出たり、セミナーのビデオを出したりしていたが、様々な会計的な細工で投資成果を嵩上げしていたことが後に発覚した
“敗者が自滅することによって勝敗が決まる”
『敗者のゲーム』著者のチャールズ・エリスは、アマチュアのテニス・ゲームは勝者のみごとなスマッシュによってではなく、敗者が自滅することによって勝敗が決まるのだと喝破している。株式投資もまさにそうなのだ。
“株式投資は結局のところ、一種のアートだからである”
原文のままだと「株式投資は結局のところ、ある種の特殊な才能と幸運という神秘的な力の助けを必要とする、一種のアートだからである。」
インデックスファンドを標榜する著者でさえ、個別株式投資は刺激的で、面白くて、やめるわけにはいかない魅力がある
<原著第7版>
“チャート分析は錬金術と大差ない”
現代では化学的な方法によって金以外の物質から金を作り出す錬金術自体は否定されているが、このことによって科学が進歩したのも事実である
同様に、チャート分析も現代ではそれ自体で儲けることは不可能と考えられるが、過去、情報が不完全な時代にはチャート分析によって儲けられた時代もあったのではないかと推察する
“プロたちに詳細にフォローされていない小さな会社”
バートン・マルキールが効率的市場理論を全面的に肯定するのをためらっている理由がある
- 市場のアノマリー
- 株価形成における完全性という仮定
- 情報伝達の同時性という仮定
- 与えられた情報をもとに本質的な価値を求める作業の困難さ
このうち３について、プロたちによって詳細にフォローされていない小さな会社についても効率的市場仮説が当てはまるか疑問に感じている
私個人としてはこれこそが個人投資家にとって最大のチャンスだと考えている
総合評価
個人的には1999年発行の<原著第7版>を読んでいたが、最新の<原著第12版>を読んで資産運用の更なる進化を感じることができた
個人投資家のための総合的な投資指南書とあるが、一般の個人投資家が読んで理解するのは少し難しいのではないかと思う
難易度
中級（金融関係者等）
資産運用の役立ち度（星1~5）
⭐️⭐️⭐️⭐️
