「損切りは早く、利食いは伸ばせ」がなぜできないのか
心理学の知識を使って、投資理論を前進させた行動ファイナンス理論
投資はもとより一般の生活でも役に立つ理論をわかりやすく解説
この本から学ぶ、資産運用に役立つキラーフレーズとは……
本の概要:
ノーベル経済学賞の理論がぐんぐんわかる!値上げした途端に売れだした宝石の謎、バブル発生のしくみなど、伝統的な経済学では説明できなかった事象を解明した「行動ファイナンス」理論をわかりやすく解説著者:
真壁 昭夫
日本のエコノミスト。 みずほ総合研究所主席研究員等を経て、法政大学大学院政策創造研究科教授。 専門は行動ファイナンス理論、投資理論 、金融工学。
この本から学ぶ、資産運用に役立つ必殺フレーズ
“良いものは高い、高いものは良いものだと思い込んでしまう” p.20
“経済評論家は実践に重きを置き、経済学者は理論を重視する” p.72
“利益をなるべく早く確実なものにしたい一方、損失は先送りしたい” p.125
“認知的不協和” p.129
解説
“良いものは高い、高いものは良いものだと思い込んでしまう”
値段が高いから良いものと思い込んでしまう先入観を心理学の世界では、判断のヒューリスティック(直感的推論)という
これは日常生活を送るうえで人間が身につけた生活の知恵である
人間は日々多くの判断を繰り返している。本来であればじっくりとその本質を検討すべきであるが、判断を急ぐ場合や判断の材料や知見のない場合を含めて直感で判断する
その際の論理として良くないものは誰も買わないから安いはずと考え、高いと言うことだけで良いものと判断する
株価であっても、何の理由もなく安くなった株価には直感的に何か悪いことがあるのではと考え買えなくなる心理がこれにあたる
“経済評論家は実践に重きを置き、経済学者は理論を重視する”
経済学者は必ず仮定をおいて、そこから論理的な帰結を求める。だから実際の経済の動きについては複雑すぎて仮定が成り立たないので役に立たない
経済評論家は経済で起こった結果について後からその理由を探して答えるのでこれも役に立たない
“利益をなるべく早く確実なものにしたい一方、損失は先送りしたい”
お金がもらえて嬉しいとか、お金を落として悲しいとかいう感情を経済学では効用といいます。
そういった損益に対しての効用をグラフ化したのが上の効用曲線です。
横軸が投資損益、縦軸が嬉しい悲しいを表す効用となっています。
このグラフから重要なことがわかります。それは感応度低減というキーワードです。
つまり利益が増えていくと感動が薄らいでしまうということです。損失も同じです。
株価が買値の1/10になってしまったら、そこから下がって1/11になっても大して変わらないと感じてしまうのです。
1000円で株を買ったとします。今1100円になりました。更に100円上がって1200円になる時と100円下がって1000円に戻る時と嬉しさはどう変化するでしょうか?
図より、上がった時の嬉しさの増加に比較して、下がった時の嬉しさの減少の方がより激しいのがわかります。これが、利益を早く確定させたいという欲求の源泉なのです。
反対に1000円で株を買った後900円になりました。更に100円下がった時の悲しみの増加分と100円上がって1000円に戻った時の悲しさの減少分を比較してみましょう。
図より、下がった時の悲しみの増加より、上がった時の悲しみの減少の方が大きい事がわかります。
つまり、株が上がっている時は利益を早く確定させたい欲求が働き(リスク回避的)、逆に下がっている時は損失を確定したくない欲求(リスク愛好的)が働くのです。
この理論をプロスペクト理論として発表した米国の行動経済学者ダニエル・カーネンマン博士、エイモス・トベルスキー博士は2002年ノーベル経済学賞を受賞しました。
損切りは早く、利は伸ばせ”という事がなかなか人間にはできないということを彼らは理論的に説明したのです。
“認知的不協和”
この会社の株は上がると思って買ったのに、実際の株価は下がり続けている
そんな時、自分の考えと現実が違った動きとなっている対立を心理学では「認知的不協和」という
このような対立を人は不愉快に感じ、認識の対立を解消しようとする
上記の例で言えば、現実の株価は下がり続けているが、これは一時的と考え、上がるということと矛盾しない考えに持っていこうする
総合評価
難易度
初級(初心者〜)
資産運用の役立ち度(星1~5)
⭐️⭐️⭐️⭐️
数式など使わずにわかりやすく「行動ファイナンス」理論を理解するための書
マーケットの動きより自分自身の投資行動を見直すきっかけになりそう